豆腐と恋に落ちました
2010年4月1日 日常
恐らく世界中を探しても豆腐と恋した人間は自分だけだと思います。
話せば長くなるので何とか文章にまとめてみました。
お暇ならば読んでいただければ幸いです。
それは俺がまだ学生で、彼女が豆乳だった頃の話だ。
夏休みに一緒に海に行ったことがあって
海辺で遊ぶ他の娘達と自分を比べて太ってるとでも勘違いしたのかな。
「わたし、がんばってダイエットする!」とか言い出しちゃって
傍から見ても別段太ってるようには見えなかったんだけど
アイツが頑張ると言ってるんだから彼氏としては見守るほかないなぁと応援することにした。
でもそれが間違いだった。何故あのとき止めなかったのかと今でも後悔している。
ダイエット開始から1年後、アイツは見る見る内に衰弱していった。
大丈夫だよ、と強がるアイツだったが、俺には嫌な予感がした。
アイツに真相を問い質すと最初こそ拒んでいたが「俺は怒らない」という約束を立てると
ようやくその重い口を開いた。
「ごめん…テレビでやってた“にがりダイエット”を始めて…」
やっぱりだ…豆乳の彼女にとって“にがり”は劇薬、命を奪いかねない毒だ。
どうしてそんなものを…
「私がデブだから…ごめんね…ごめん…」
そんなことはない、しかしその一言は今の彼女をさらに傷つけることになるだろう。
大粒の涙を流し謝る彼女を、俺はただ抱きしめることしかできなかった。
その日の夜、アイツが高熱を出して病院に運ばれたと彼女のおからさんから連絡が入った。
俺は着の身着のまま家を飛び出し、通りでタクシーを拾い病院へ向かった。
病院へ着くと彼女の担当医からアイツは非常に危険な状況だということを知らされた。
「今夜が山です、覚悟しておいてください」
「どうにかならないんですか!?助けてください、お願いします!!」
「ひとつだけ方法があります」
担当医はそう言うと、懐から小瓶を取り出した。
「彼女に“にがり”を投与するのです」
はぁ?何言ってんだコイツ
「アイツを殺す気ですか!?先生!!」
担当医の胸倉を掴み激しく揺する、それに合わせて医者の手に握られた小瓶の中で濁った液体が泡立った。
「毒をもって毒を制す、この言葉の意味…分かりますか?」
ああ、よく分かる。それはアイツがアイツでなくなることを意味している。
だがもう猶予はない、アイツが助かるなら…
「おねがいします…」
数日後、ICUから出てきた彼女は、もう俺の知っているアイツではなかった。
そんなこんなで今のアイツは豆腐です。
前と姿形は全く違うし、味も触感も全然異なります。
突けば崩れ、握れば手からこぼれ落ちるほど繊細でキメ細やかです。
柔らかく白くて、前とは違って純白が似合うヤツです。
ですがやっぱりアイツはアイツでした。
これから彼女は誰かに支えられて生きていかなければなりません。
豆腐というものは一人では形を作ることはできない、その形を作るには『容器』が必要なのです。
ならば俺がその容器になろう、崩れないように、こぼれないように全てを包み込んでやろう。
そしていつの日か、また海に行こう。アイツは泳ぎが得意だから。
そんなわけで、俺たち来週出荷します!
話せば長くなるので何とか文章にまとめてみました。
お暇ならば読んでいただければ幸いです。
それは俺がまだ学生で、彼女が豆乳だった頃の話だ。
夏休みに一緒に海に行ったことがあって
海辺で遊ぶ他の娘達と自分を比べて太ってるとでも勘違いしたのかな。
「わたし、がんばってダイエットする!」とか言い出しちゃって
傍から見ても別段太ってるようには見えなかったんだけど
アイツが頑張ると言ってるんだから彼氏としては見守るほかないなぁと応援することにした。
でもそれが間違いだった。何故あのとき止めなかったのかと今でも後悔している。
ダイエット開始から1年後、アイツは見る見る内に衰弱していった。
大丈夫だよ、と強がるアイツだったが、俺には嫌な予感がした。
アイツに真相を問い質すと最初こそ拒んでいたが「俺は怒らない」という約束を立てると
ようやくその重い口を開いた。
「ごめん…テレビでやってた“にがりダイエット”を始めて…」
やっぱりだ…豆乳の彼女にとって“にがり”は劇薬、命を奪いかねない毒だ。
どうしてそんなものを…
「私がデブだから…ごめんね…ごめん…」
そんなことはない、しかしその一言は今の彼女をさらに傷つけることになるだろう。
大粒の涙を流し謝る彼女を、俺はただ抱きしめることしかできなかった。
その日の夜、アイツが高熱を出して病院に運ばれたと彼女のおからさんから連絡が入った。
俺は着の身着のまま家を飛び出し、通りでタクシーを拾い病院へ向かった。
病院へ着くと彼女の担当医からアイツは非常に危険な状況だということを知らされた。
「今夜が山です、覚悟しておいてください」
「どうにかならないんですか!?助けてください、お願いします!!」
「ひとつだけ方法があります」
担当医はそう言うと、懐から小瓶を取り出した。
「彼女に“にがり”を投与するのです」
はぁ?何言ってんだコイツ
「アイツを殺す気ですか!?先生!!」
担当医の胸倉を掴み激しく揺する、それに合わせて医者の手に握られた小瓶の中で濁った液体が泡立った。
「毒をもって毒を制す、この言葉の意味…分かりますか?」
ああ、よく分かる。それはアイツがアイツでなくなることを意味している。
だがもう猶予はない、アイツが助かるなら…
「おねがいします…」
数日後、ICUから出てきた彼女は、もう俺の知っているアイツではなかった。
そんなこんなで今のアイツは豆腐です。
前と姿形は全く違うし、味も触感も全然異なります。
突けば崩れ、握れば手からこぼれ落ちるほど繊細でキメ細やかです。
柔らかく白くて、前とは違って純白が似合うヤツです。
ですがやっぱりアイツはアイツでした。
これから彼女は誰かに支えられて生きていかなければなりません。
豆腐というものは一人では形を作ることはできない、その形を作るには『容器』が必要なのです。
ならば俺がその容器になろう、崩れないように、こぼれないように全てを包み込んでやろう。
そしていつの日か、また海に行こう。アイツは泳ぎが得意だから。
そんなわけで、俺たち来週出荷します!
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